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東京地方裁判所 昭和31年(モ)10059号 判決

理由

判決要旨

債権者が、昭和二十八年四月十四日亡朱信発から、金五百万円を借り受けたこと(以下これを第一回の消費貸借という)、そしてその担保として本件不動産に抵当権を設定し、同日その旨の登記を経由したこと、その後朱信発が右抵当権実行のためとして横浜地裁に競売の申立をなして競売開始決定を得たこと、朱信発が債権者から弁済期までに右元利金の支払を受けていたこと、及び債権者が朱信発から昭和二十八年七月十一日、金五百万円を借り受けたこと(以下これを第二回の消貸費借という)は、いずれも当事者間に争がない。

よつて右第二回の消費貸借について、債務者主張のような抵当権設契約があつたかどうかについて考察する。蓋し、第一回の消費貸借については、その元利金が弁済期までに支払われたことは債務者の認めて争わないところであるから、その担保としての抵当権はすでに消滅していることはいうまでもないからである。

而して証拠を綜合すれば、債権者は第一回の消費貸借における借受金を銭祿栄を通じて朱信発に弁済するにさきだち、期限の延長を申し入れたが、「とにかく一応弁済してほしい、そうすればもう一度貸すことにする。」といわれたので、前記のように元利金を期限前に支払い、直ちに第二回の消費貸借契約を結び、その後遅くとも昭和二十八年九月ころまでに、右銭祿栄から、当時債権者がその計理事務一切を任せていた板垣清に対し、本件不動産について、第二回の消費貸借による債務の担保として抵当権を設定すること、しかし改めて登記はせず、さきにした第一回の消費貸借の抵当権の登記を利用し、その効力を維持すべきこととしたい、との申入があり、板垣清は、債権者の承諾を得た上、銭を通じ朱信発に、債務者名義の右申入の趣旨にそう証書を差し入れたことが一応認められる。

ところで、右の事実によれば、債権者は第二回の消費貸借に当り、その担保として第一回の場合と同じく、本件不動産に抵当権を設定し、ただその登記については第一回の消費貸借における抵記権の登記を流用することとしたものというべく、かような契約に契く登記の第三者に対する効力については暫く措くも、少くとも当事者間では、後に成立した債権について、有効に抵当権の設定が行われたものと解するのが相当である。

従つて債務者のなした右抵当権の実行による本件不動産の競売の申立は結局理由があるものといわなければならない。

なお債権者は、債務者が朱信発の相続人であることを争い、右競売手続は承継人のないものとして停止さるべきであること主張するが、競売法による競売手続は、その進行中申立人が死亡しても中断さるべきものではないから、債権者の右主張は理由がないものといわざるを得ない。

以上説示したところにより明らかなように、債権者の本件仮処分申請は被保全権利についての疏明を欠くこととなるのであるが、もとより保証を以て右疏明に代えることも適当とは認め難いので、右申請は畢竟理由なきに帰するとして、債権者の申請を認容してなした競売手続停止の仮処分決定はこれを取り消し、債権者の申請を却下した。

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